アーユルヴェーダでは、病気は6段階のプロセスを経て悪化すると言われています。これは「シャット・クリヤカーラ」と言います。
●最初はドーシャの蓄積が始まる(サンチャヤ、1段階)
●だんだんドーシャが増悪るす(プラコーパ、2段階)
●ドーシャがもとの場所から溢れ、ほかの場所への拡散が始まる(プラサラ、3段階)
●ドーシャがほかの場所に定着する(スターナ・サンシュラヤ、4段階)
●病気が発現する(ヴェクタ、5段階)
●病気が慢性化あるいは分化する(ベーダ、6段階)
段階が進めば進むほど治るまでに時間がかかります。そりゃそうです。インドといえども医療の中心は現代医学。病気になって現代医療を受け、いつまでも治らないのでアーユルヴェーダクリニックを受診するというのが一般的のようです。そのときにはベーダ(6段階目)まで悪化しているので治りが遅いのです。有効な生薬を処方しても簡単には治りません。
インド政府内のAYUSH省は「2030年までにアーユルヴェーダをインドの医療の中心に据え、国民が病気になったら真っ先にアーユルヴェーダクリニックを受診するようになる機運をつくる」ことを目標の一つに掲げています。とにかく、病気進展の早い段階で治したほうが治りが早いことは明らかです。プチ不調のうちに改善することが健康維持の近道です。
ある女性はいくつかのお悩みをもっていました。
●肌の乾燥
●眠りが浅い
●将来に対する不安感
●イライラ
●疲れ感がとれない
●足が含む、などなど。
将来不安はどういうことかと聞くと「これから新しいことを始めるが、それがうまくいくかどうか不安である」という答え。だれだって新しいことを始めるときには、楽しみ半分・不安半分です。この女性も「楽しみ半分・不安半分」だと答えました。それは普通の感情ですよと私は言いました。なのでこれは脇に置くことにしました。
肌の乾燥の原因を探ると、ほうじ茶を1日1リットル飲んでいることがわかりました。ほうじ茶は渋味が多いので、体内の水分を必要以上に排出する可能性があります。渋味は体内の水分を減らす性質をもっています。1日1リットル⇒500mlに減らすようにアドバイスしました。その分、白湯を飲んでもらうことにしました。
眠りが浅いこととイライラは仕事に関係していました。この女性はフリーランスで仕事をしていて、休日がありません。夜中に予約が入ると、ベッドから出てすぐに返信するという対応をとっていました。こういう仕事の仕方なので、心がゆったりする日がないのです。しかし、夜中に予約のメールを送る人は即座の返信を期待してはいないと思うのです。なので、決めた時間以降に来たメールには翌朝返信するようにしてはどうかとアドバイスしました。午後から仕事がない時には何もしないようにしてはどうかとも進言しました。
朝はデーツを食べ、就寝前はホットミルクを飲むことを勧めました。
それから1週間後。
この女性は夜中の返信を止めました。その結果、眠りが改善しました。
ボーっとする時間をつくったことでイライラも減りました。
ほうじ茶の量を減らしたことで肌の乾燥も軽減しました。
将来不安も軽減しました。
アーユルヴェーダのすごい点は、日常生活を少し変えることで大きな変化が得られることです。もし眠りが浅いということで心療内科を受診すれば、睡眠導入剤を処方され、それがさらなる悪化を招きかねません(良い医者は安易に睡眠導入剤を処方しないと思いますが)。
感染症は別として、自分の内側から起きる不調は日々の生活を見直すことで改善できるのです。ディナチャリヤが大切です。シャット・クリヤカーラの1段階目か2段階目で生活を見直すことが健康への近道です。